配信日 | 雑誌名 | 号 |
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2023/08/03 | 週刊文春 | 2023年8月10日号 |
忘却の河 (新潮文庫)
ISBN: 4101115028
発売日: 1969/5/2
出版社: 新潮社
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孤独と愛と死と芸術を凝視し続けた小説世界――。
いまもなお鮮烈な傑作長篇。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。
「忘却(レーテー)」。それは「死(タナトス)」と「眠り(ヒュプノス)」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという――。
過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』とともに読み継がれてきた傑作長編。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。
【目次】
一章 忘却の河
二章 煙塵
三章 舞台
四章 夢の通い路
五章 硝子の城
六章 喪中の人
七章 賽の河原
初版後記
解説:篠田一士
今、『忘却の河』を読む:池澤夏樹
【著者の言葉】
約一年半の間殆どこの作品にかかりきりだったから、私としては多少の思い出がある。特にこの作品の発想となった一昨年の晩秋、旅行の途中で見た石見の国波根(はね)の海岸の風景は忘れられない。私はその風景を作品の中に用いたわけではなく、賽の河原にしてもまったくの空想であるが、この作品の全体にあの海岸の砂浜に響いていた波に弄ばれる小石の音が聞えている筈である。(本書「初版後記」より)
福永武彦(1918-1979)
福岡県生まれ。一高在学中から詩作を始める。東大仏文科卒。1948年、詩集『ある青春』、短篇集『塔』、1952年、長篇小説『風土』を発表、注目を集める。1954年、長篇小説『草の花』により、作家としての地歩を確立。以後、学習院大学で教鞭をとる傍ら『冥府』『廃市』『忘却の河』『海市』など、叙情性豊かな詩的世界のなかに鋭い文学的主題を見据えた作品を発表。1961年『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、1972年『死の島』で日本文学大賞を受賞。