配信日 雑誌名
2023/09/01 婦人画報 2023年10月号

所有とは何か-ヒト・社会・資本主義の根源 (中公選書 138)

ISBN: 4121101391

発売日: 2023/6/8

出版社: 中央公論新社

Amazonランク: 0

「所有」とは何か?



本やスマホ、土地や家屋、雇用や資産。自分のモノとして持っていることが「所有」であり、衣食住や商品取引、資本主義の原点である。こんにちシェアやサブスクがあるのに、ヒトは所有せずにいられない。他方でヒトの生存を守る所有権が、富の偏在を生む元凶となっている。なぜだろうか? 経済学や社会学、人類学の第一線の研究者6人が、所有(権)の謎をひもとき、人間の本性や社会の成立過程、資本主義の矛盾を根底から捉えなおす。



■本書の目次■



まえがき  梶谷懐



第1章 所有と規範   岸政彦

―戦後沖縄の社会変動と所有権の再編



1 都市化の帰結

2 貧困と排除

3 子どもたちの共和国

4 自治の感覚



第2章  手放すことで自己を打ち立てる  小川さやか

―タンザニアのインフォーマル経済における所有・贈与・人格



はじめに



1 私有した後の財のゆくえ

転売・転贈・シェアを想定した所持/生計多様化戦略としての財の所持



2 「私有の失敗」の合理性

長期的な商売戦略/マリ・カウリ取引/「助けあい」の意識



3 変転する環境における所有

タンザニア現代史/所有への信頼低下



4 財の分散と人格の分散

「保険」としての財の分散/贈り物の来歴と人格の拡散



5 社会をつなぐハブとなる

自らの系譜を打ち立てる/「自己」の生成/客筋の「ネクサス」としてのインフルエンサー



まとめ



第3章 コンヴェンション(慣習)としての所有制度  梶谷懐

―中国社会を題材にして



はじめに―制度と文化的信念



1 コンヴェンションとしての所有制度

ルールと均衡/均衡1―進化ゲーム理論/均衡2―コンヴェンション/エスカレーターは左か右か/歴史のなかのコンヴェンション―奴隷貿易から



2 「アジア的な所有」と東洋的専制主義

アジアの「弱い所有権」/水力社会/華北と江南の差異



3 伝統社会のコンヴェンション1―土地所有制度

土地公有制/農地開発の一元化/土地制度改革/所有権・請負権・経営権の分離/中国的な所有権―管業と来歴/理念的上級所有権としての「王土」概念/リスクシェア/所有の起源―信用取引/民衆の生存戦略



4 伝統社会のコンヴェンション2―企業制度

法人企業の二重性/中国の雇用形態―傭・合股・包/「合股」の特徴/土地株式合作社/中国型資本主義―国有企業の拡大/大手IT企業の戦略



まとめ



第4章 経済理論における所有概念の変遷  瀧澤弘和

―財産権論・制度設計から制度変化へ



はじめに



1 新古典派と私的所有

市場交換を可能にする所有/「見えざる手」のメカニズム



2 ロナルド・コースの洞察

制度の経済学/取引費用から財産権へ



3 所有権と財産権の理論

新制度派とエージェンシー理論/取引費用理論/財産権理論



4 市場設計の時代へ

所有権とは何か/制度設計の潮流/所有権・財産権の再設計



5 ポスト・ゲーム理論の制度論―制度変化の理論に向けて

ゲーム理論による制度分析の長所/進化ゲーム理論/ルイスのコンヴェンション理論/ 青木昌彦の制度モデル/慣習的行動を規制する階層化された制度/共的資源の統治/制度の本質―実効化/習慣⇔インフォーマル⇔フォーマル間の相互作用



まとめ



第5章 資本主義にとっての有限性と所有の問題  山下範久



はじめに



有限性の壁/主体のヒトが、客体のモノを「所有」する/世界システム論の意味/左翼の歴史



1 世界システム論の二つの顔と所有の問題

私的所有と賃労働/外部を内部に収奪する二元論―植民地建設、石油資源/収奪の論理―文明と野蛮、オリエンタリズム、科学/ロックの所有論/外部の消滅―有限性/一元論の逆襲



2 資本主義的世界=生態

ヨーロッパ中心主義批判vs.市場の自然主義批判/資本主義的と自然の「束ね合わせ」/資本主義―収奪なくして搾取は持続しない/自然からの贈与が収奪に変わる/資本主義と自然の共-生産



3 内在化という「新しい資本主義」

「安価な自然」と奴隷/フォーディズムからポストフォーディズムへ/男性労働者の包摂からマイノリティの包摂へ/収奪のネットワーク化/モノの民主化/データキャピタリズムの影



まとめ

内在化は市場化ではない/モノは自然だけではない



第6章 アンドロイドは水耕農場の夢を見るか?  稲葉振一郎



はじめに



1 「所有」の来歴―ロック、動物、AIから考える

2 所有財産としての農業システム

3 「農の論理」vs.「市場の論理」

4 生物と無生物の間の時代



あとがき  岸政彦



参考文献

著者一覧