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2023/09/12 週刊エコノミスト 2023年9月19日号

中央銀行はお金を創造できるか―信用システムの貨幣史―

ISBN: 4815811253

発売日: 2023/6/9

出版社: 名古屋大学出版会

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社会に深く浸透している経済学の「常識」が、いかに貨幣の実態を捉えそこね、不合理な判断や施策を生み出してきたか、イギリス金融史の精緻な分析をもとに鋭く実証。近代的貨幣の生成プロセスを「信用」の次元から描き直すことで、MMTにもつながる素朴な認識を覆し、政策の指針を示す。



【書 評】

・『週刊エコノミスト』(2023年9月19・26日合併号、評者:平山賢一氏)

“…… 中央銀行は、貨幣流通量を増やして、インフレ率を高め、経済活動を活発化することは完全にできないのだろうか? 多くの人々が抱く疑問に対して、本書は、そもそも中央銀行は、貨幣を増減させ得ないと断じる。貨幣は、経済活動の外から与えられるものではなく、経済活動を通した債権・債務(信用)から生じるものとするからだ。前者を外生説、後者を内生説と呼ぶが、内生説の立場から金融史の事例を通して外生説を厳しく批判し、その限界を実証していく切れ味は鋭い。……

ところで、著者は、資本主義の「金融化(実体経済と乖離した金融活動の肥大化)」こそが「内生説の真価が試される問題」であると指摘している。この言葉の意味は、非常に重い。信用が先行して預金通貨が生まれる内生説を前提とするならば、信用を活用してレバレッジ(他人資本で収益率アップ)を拡大する行動は、金融システムに内在された所与の特性そのものであるからだ。……”(pp.54-55)



・毎日新聞(2023年8月5日付、評者:松原隆一郎氏)

“…… 貨幣は経済活動の内部で求められて初めて口座から引き出される。中央銀行は間接的にしか影響を与えられない。著者はこれを貨幣創出の「内生説」と呼び、外から管理しうるとする「外生説」は「神話」ないし「天動説」と断定する。

著者はイギリス金融史の泰斗。外生説と内生説の対立は近代イギリス経済史で幾度となく繰り返されてきた。ながらく決着のつかなかったこの論争を歴史から振り返り、内生説の正しさを主張したのが本書である。詳細な歴史知識と大胆な現状判断の融合は圧巻だ。……”(第15面)



【目 次】

序 章 金融政策の前提を疑う

      —— 外生説批判の必要性

     1 銀行券は印刷機で増やせるのか

     2 外生説と内生説

     3 外生説と内生説のはてしない対立

     4 対立はなぜ決着しないのか

     5 本書の目的と構成 —— 信用先行視点を導入して



  第Ⅰ部 貨幣内生の現象

       —— イギリス金融史の実態



第1章 通貨論争期における金準備と銀行券流通

     1 通貨論争とピール銀行法の成立

     2 ピール銀行法下の実態

     3 1847年恐慌後のピール銀行法とイングランド銀行



第2章 第一次大戦期のカレンシー・ノート発行

     1 1914年恐慌とカレンシー・ノート発行

     2 大戦中のカレンシー・ノート増加

     3 大戦後のカレンシー・ノート統合



第3章 両大戦間期における金本位復帰と金本位放棄

     1 金本位復帰以前と以後の銀行券流通

     2 金本位放棄以前と以後の銀行券流通

     3 両大戦間期における預金通貨も含む貨幣流通



第4章 額面別・地域別流通に現れる銀行券の内生性

     1 銀行券の額面別還流様相

     2 銀行券の支店別・額面別流通額



  第Ⅱ部 貨幣内生の根源

       —— 振替決済システム形成と信用先行



第5章 物々交換神話の解体と信用先行視点の導入

     1 貨幣が先か、信用が先か

     2 ヤップ島の決済システムと経済学者の信用先行論受容

     3 イマジナリー・マネーによる決済

     4 信用先行視点の必要性 —— 従来の研究における弱点



第6章 振替決済システムの形成とロンドン金融市場

     1 西ヨーロッパにおける振替決済システムの形成

     2 アムステルダム銀行とバンク・マネーによる振替決済

     3 ゴールドスミス銀行とロンドン決済システムの形成



第7章 イングランド銀行と預金・銀行券の普及

     1 ランニング・キャッシュ手形

     2 清算簿

     3 銀行券額面の印刷

     4 預金・銀行券と振替決済



第8章 振替決済システムの発展と銀行券の現代化

     1 手形交換所の生成 —— 振替決済システムの発展①

     2 「銀行の銀行」への道 —— 振替決済システムの発展②

     3 銀行券の現代化

     4 銀行券の不換化



補 論 MMT における内生説・外生説の混在

     1 MMT への疑問

     2 国債発行における信用先行

     3 振替決済システムも信用先行も視野にない内生説



終 章 天動説から地動説へ

      —— 振替決済システムと信用先行による内生的貨幣供給

     1 振替決済システムと預金・銀行券

     2 狭義および広義の振替決済 —— 支払指図書としての銀行券

     3 不換国際通貨の債務性

     4 信用先行視点の帰結

     5 資本主義の「金融化」をこえて



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