配信日 雑誌名
2024/07/04 週刊新潮 2024年7月11日号
2024/09/02 週刊エコノミスト 2024年9月10日号

がん征服

ISBN: 4103557117

発売日: 2024/06/17

出版社: 新潮社

Amazonランク: 0

レビュー

あらゆるがんの中でもっとも難しいがん、脳腫瘍のグレード4「膠芽腫(こうがしゅ)」。

平均余命15カ月。

手術、抗がん剤、放射線という標準療法以降の新しい治療法がこの最凶のがんに挑む。

原子炉・加速器を使うBNCT。

楽天三木谷浩史がのめりこむ光免疫療法。

このうち東大医科学研究所の藤堂具紀が開発した遺伝子改変ウイルスのG47Δが承認を得、

メディアは「世界最高のがん治療」と礼賛する。

だが、その治験は有効性を証明したとはいえないと判断されていた。

話は安倍政権下の薬事法の改正にまでさかのぼる。

県庁で突然てんかん発作をおこし倒れた

朝日新聞記者桂禎次郎の脳の画像には白い環が写っていた。

中央の黒い部分は栄養がいかずすでに壊死している部分

そしてそれをとりかこむようにして腫瘍と思われる部分がうつっている。

この画像が出たときには「膠芽腫」を疑う。

医者は、リングエンハンスと呼ばれる画像をみた瞬間に

わずか2年以内に半数以上がなくなる運命になることを

瞬時に理解し覚悟する。

平均余命15カ月

原子炉・加速器、ウイルス、光が

最凶のがん「膠芽腫」に挑む

迫真の医療ノンフィクション!

 

産学官を横断取材!

(目次)

プロローグ 覚醒下手術

もっとも難しいがんと言われる脳腫瘍のグレード4「膠芽腫」。平均余命は診断後15カ月。朝日記者の桂禎次郎は、開頭後に麻酔をさますという覚醒下手術をうけることに同意した。

第1章 原子炉でがんを治す

どんなにうまく手術をしても治らない脳腫瘍「膠芽腫」に最初に挑んだのは、原子炉を使った奇想天外な療法だった。京大出身の脳神経外科医宮武伸一はその可能性にかける。

第2章 核医学という辺境から

後に光免疫療法という独自の分野を切り開くことになる小林久隆は京大の核医学科の出身だった。小林は核医学という辺境にありながら、がんの本当の治療とは何かを考えていた。

第3章 汝を殺すもの、また汝を救う

この物語の三本目の柱はウイルス療法だ。80年代、脳神経外科医のロバート・マルトゥーザが、風呂の中で素粒子物理学の本を読んでひらめいたのだ。ウイルスは治療に応用できる。

第4章 免役をつかさどる遺伝子を改変する

ウイルスの増殖のスピードががんのそれに負けてしまうという問題点を解決したのは、「免役」を司る遺伝子を改変するという発想だった。藤堂具紀のG47Δが登場する。

第5章 偽進行

BNCT照射後3カ月で画像上に広がる白い影は腫瘍の再発ではなかった。中性子線による放射線浮腫の可能性が高いことを大阪医科大学の宮武伸一はある偶然から気がつく。

第6章 光免疫療法の発見

がんを光らせ画像診断のためにふりかけたある物質。がんは光らず、細胞自体がみるみる死んでいった。が、これは診断ではなく治療に使えるのではないか? 小林久隆の発見。

第7章 腫瘍再発か脳浮腫か?

画像上の白い広がりは腫瘍の再発ではなく偽進行だ。アバスチンの投与を始める宮武伸一。余命2年と告げられた中華料理店のコックは、前人未到の長期生存者となるが――。

第8章 原子炉から加速器へ

アカデミアの発想が、実際の医療の現場で用いられるようになるには企業の力が必要だ。BNCTは、原子炉から加速器へ中性子源を変える過程でもっとも早くその企業をみつける。

第9章 三木谷浩史登場

光免疫療法は、楽天の三木谷浩史という強いスポンサーを得る。三木谷はすい臓がんにかかった父親の治療法を追い求め世界中の専門家を訪ねているなかで、小林久隆に出会う。

第10章 死の谷

藤堂具紀のG47Δを製薬会社は見向きもしなかった。そうした中「第一三共」の開発本部にいた社員が藤堂の研究に注目する。が、社内の大勢は反対、社としては見送ることになる。

第11章 有効性を確認する必要はない

2014年、「再生医療等製品」については有効性の「推定」で「条件及び期限付き」承認を与えるという制度が始まる。藤堂のG47Δがこの新制度を使えるようになった一部始終。

第12章 投資家か事業家か

三木谷は、楽天市場を1997年にたった6人の社員と始めた時と変わっていない。技術革新でできた新しい市場には、大手と組むのでなく、ベンチャーとして独自にでていく。

第13章 「条件付き早期承認」

有効性の「推定」で承認をする「再生医療等製品」にしかし目玉の治療法はなかなか生まれなかった。厚労省は、それ以外の治療法にも新しいトラックを用意しようとする。

第14章 BNCT、膠芽腫治験

BNCTが膠芽腫を適応症とした治験に入る。京大原子炉実験所以外にも二カ所、医療用の加速器が建設されることになるが、中央とのパイプがないという弱点を抱えていた。

第15章 ランダム化比較試験をとらず

G47Δのフェーズ2実施にあたりPMDAの再生医療製品等審査部の部長になった佐藤大作は、藤堂具紀に、ランダム化比較試験を勧める。しかし、藤堂はがんとしてきかない。

第16章 局所進行再発頭頸部がん治験

放射線治療と抗がん剤をやったにもかかわらず再発した頭頸部がん。このがんに対してBNCTと光免疫療法は、6カ月違いで承認を得る。奏効率を主要評価項目におけた理由。

第17章 BNCT膠芽腫治験フェーズ2

一年生存率79・2パーセント、全生存期間18・9カ月。BNCTは膠芽腫のフェーズ2治験でも圧倒的な差をつけたと思ったが、シングルアームの患者背景という問題を指摘される。

第18章 G47Δ、治験の内実

PMDAは、承認申請のあった薬の有効性が妥当であるかを検討して「審査報告書」を書く。そこにはG47Δの治験には問題があったため、評価項目は達成していないとあった。

第19章 推定承認の魔術

有効性の推定だけをもって承認をしていいのか? PMDA内でも議論はわかれていた。他の治療法は、すべて被験者数400人以上のフェーズ3で有効性を検証しているのだ。

第20章 直訴状と直談判

宮武伸一はどうしても納得できなかった。なぜ、ほぼ同じ成績であるのにBNCTは承認申請を受け付けてもらえず、G47Δは承認となるのか。理事長宛に直訴状を書くことを決意。

第21章 G47Δ製造の責任者に聞く

なぜ東大の医科研でしか治療ができないのか? G47Δの製造権をもっているのはデンカだ。第一三共でG47Δのプロジェクトを推進し、デンカへ移籍した佐藤督に聞く。

第22章 治療の拠点を増やす

藤堂のいる東大医科学研究所でしか治療のできないデリタクトとは違い、楽天メディカル光免疫療法はできるだけ多くの治療拠点をもうけることが必要だと三木谷は考えていた。

第23章 日本脳腫瘍学会

2023年12月に行われた日本脳腫瘍学会学術集会で、大阪医科薬科大学の川端信司はBNCTとデリタクトの長期治療成績を比較する発表をした。両者の間には差はなかった。

第24章 転移したがんを叩く

2023年夏、楽天メディカルは、転移性肝がんに対する光免疫療法の治験の開始を発表した。だが、小林久隆は使われている抗体に危惧を抱く。研究者の独立性とは?

第25章 なぜ治療が難しいのか?

「血管新生阻害剤」「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害剤」近年のがん治療のブレークスルーをすべてはねのけてきた「膠芽腫」。脳が脳ゆえにその治療が難しい。

エピローグ シジフォスが石を積み上げる時

謝辞

著者について

下山進

Susumu Shimoyama

ノンフィクション作家。

1993年コロンビア大学ジャーナリズムスクール国際報道上級課程修了。

2019年3月文藝春秋を退社し独立。

この30年のメディアの構造的変化を描いた『2050年のメディア』(文春文庫 2023年)、

レカネマブ承認にいたる人類とアルツハイマー病の戦いの117年史『アルツハイマー征服』(角川文庫 2023年)を上梓。

他の著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善 1995年)、『勝負の分かれ目』(角川文庫 2002年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版 2021年)。

AERAで2ページのコラムを連載中。

元慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授、上智大学新聞学科非常勤講師。

現聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。