配信日 | 雑誌名 | 号 |
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2024/11/12 | FUDGE | 2024年12月号 |
がいとうの ひっこし (imagination unlimited)
ISBN: 4909809619
発売日: 2024/10/31
出版社: イマジネイション・プラス
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レビュー
子どもにはもちろん、大人の鑑賞にも耐えうるお話だと思います。 絵の山田和明さん、別の本で拝見していましたが、この本でははっとさせられるような深い世界観を醸し出しています。原画展があるならぜひ観てみたいと思うほどに心掴まれました。 古びた街灯の灯りを人も街も必要としなくなってしまった時の流れ。 その間生きてきた街灯の、心許ない思い。自分の居場所を見つけ、誰かの役に立ちたいという願い。 さまよってやっと見つけた寂れた広場での出来事が彼を少しずつ変えていく。 疲れ、迷う人々の声を真摯に聞く姿は、要らないものとして追われてきた街灯だからこそできたこと。 そして最後に起きた奇跡。理解し合える最高の相手との巡り合いが待っていたのです。 ずっとひとりぼっちだったベンチの寂しさは、街灯のことばで溶かされたのでしょう。 お互いに必要とされるその満足感と幸福感で、広場は満たされました。
用無しの古びた街灯は、明るい夜を居場所を探して彷徨う。 さびれた公園にたどり着いた古びた街灯は、一つしかないベンチに座った人生に疲れた人に聞こえない声をかける。 淡い一つの灯りの下での、温かなお話。 -------------------- 星一つない、暗い藍色の夜の下で絵本が進んでいく。 古びた街灯が辿り着いたさびれた公園の、一つだけあるベンチ。そこに座ってうつむく人達は、暗くぼんやりしてしまった心の内をつぶやく。 だから、古びた街灯は体を傾けて皆の言葉に耳を傾け、受け入れ、認めていく。自分も同じだから。そして、心の重荷を肩代わりしてあげる。古びたとはいえ、今だにしっかりした金属製の体で。 だから、人々は一見独り言をしているつもりでも、長い間灯されつづけてきた、あわくても優しい光によって、再び心の火が明るく灯される。そして、しっかりした足取りで立ち去っていく。 その繰り返しの夜。古びた街灯によって何人もの人が人生を再び歩き始めた。だから、もうこのさびれた公園にはもどってくることはないだろう。 居場所がここしかない古びた街灯を除けば? いや、もうひとついた。そう。たった一つ置かれたベンチ。彼もたくさんの人の声をきいていたのだろう。そして、ゆったりと座らせて一休みさせてあげたかったのだろう。でも、みなすぐに立ち去っていった。ベンチの優しい気持ちに気づくことなく。 だから、ベンチの方から古びた街灯に声をかけたのに違いない。自分と思いを同じにする仲間にずっといてほしくて。自分が休む場所を差し出し、更に心に火を灯してくれる相手ができたのがうれしくて。それは古びた街灯も同じだったのだろう。だから、街一番寂しい広場は、今夜はどこよりも明るく輝いた。 そしてそれは、人々のために、ずっとずっと続いていくだろう。
著者について
文: 山田彩央里
宮城県で生まれ、明治学院大学英文科を卒業後、JJEカレッジキャリアセンターで児童文学と創作絵本を学び同人誌「しっぽ」に作品を投稿する。今回の絵本「がいとうのひっこし」が初めての出版となる。日本児童文芸家協会会員。
絵: 山田和明
京都市に生まれ現在の嵯峨美術大学でデザインを学ぶ。建築会社で建築パースや宇宙イラストレーションを制作。その後、アクアスタジオを設立しイラストレーションや絵本を国内外で出版。 2010年、2011年、2018年にイタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選。「My Red Balloon」はルークス賞・トロイスドルフ絵本賞を受賞。「あかいふうせん」は第9回ようちえん絵本大賞を受賞。日本児童文芸家協会会員。