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2025/03/06 週刊新潮 2025年3月13日号

大いなるナショナリスト 福澤諭吉

ISBN: 4865784497

発売日: 2025/1/28

出版社: 藤原書店

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レビュー

矛盾に満ちた人間社会の虚実を怜悧に見据え、なお文明に近づかんとする思想的苦闘が福澤のものだと私は考えます。福澤思想は、戦後につくられたイメージよりはるかに多面的、多層的であり、はるかに懐の深い思想です。福澤像の「既成品」とは距離をおき、福澤自身が書き残した文献に虚心に当たり、真実の福澤の思想像に迫ってみようという思いから本書は生まれました。



福澤は文明開化論者だといわれます。その代表的著作が『文明論之概略』です。同書は「西洋の文明を目的とする事」に始まりますが、この厖大な著作の結論は「国の独立は文明なり、今の我文明はこの目的を達するの術なり」と反転します。この反転論理の綾なす中に福澤思想の核心があるのですが、その論理構造を明らかにした書物を、私は残念ながらみたことがありません。人為的につくられ、そうして閉じられてしまった福澤像の権威に逆らうようなことを人はやりたがらないということなのでしょう。 (「はじめに」より)

著者について

【著者紹介】

●渡辺利夫(わたなべ・としお)

拓殖大学元総長、元学長。

昭和14(1939)年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修了。経済学博士。筑波大学教授、東京工業大学教授を経て拓殖大学に奉職。専門は開発経済学・現代アジア経済論。(公財)オイスカ会長。日本李登輝友の会会長。平成23(2011)年、第27回正論大賞受賞。

著書に『成長のアジア 停滞のアジア』(講談社学術文庫、吉野作造賞)、『開発経済学』(日本評論社、大平正芳記念賞)、『西太平洋の時代』(文藝春秋、アジア・太平洋賞大賞)、『神経症の時代――わが内なる森田正馬』(文春学藝ライブラリー、開高健賞正賞)、『アジアを救った近代日本史講義――戦前のグローバリズムと拓殖大学』(PHP新書)、『放哉と山頭火』(ちくま文庫)、『新 脱亜論』(文春新書)、『死生観の時代』(海竜社)、『台湾を築いた明治の日本人』(産経新聞出版/産経NF文庫)など。



(本データは刊行時のものです。)